木曽 久美子(KISO,KUMIKO)
学位:博士(工学)
研究テーマ
建築記号の解釈としての認知地図の分析に基づく建築・都市空間のデザインに関する研究
研究概要
今日人工物のデザインは、人工物単体のデザインから、人間と人工物との相互関係のあり方を重視するデザインへと、その質的変換を行うことが喫緊の課題となっています。こうした背景の下、建築・都市空間(建築物およびそれを取り巻く都市空間)のデザインを、建築・都市空間及び人間が相互に関係しあい変化し続ける複雑な現象のデザイン、すなわち「人間-環境系」におけるあらゆる「関係性のデザイン」であるとして捉え、そのデザイン方法構築を目指して研究を進めています。このとき関係性といっても様々なものがありますが、本研究では、定量的な評価が難しいとされている人間にとっての建築物の意味やその解釈のプロセスにおける人間と建築・都市空間の関係性に着目したデザイン方法の構築を目指しています。
その初期段階として現在は、人間が環境との相互作用を経ながら構築する「空間知識の内的な表れ」である「認知地図」の分析結果に基づいた、人間-環境系における関係性のデザインのためのデザインシミュレータの構築を目指しています。このとき、意味の現象についての理論であるC.S.Peirceの記号論を理論的枠組みとして分析を進めています。
具体的には、大学周辺地域を対象に研究を展開しています。認知地図の分析にあたり、福井大学、福井工業大学、フランスにあるフランシュ=コンテ大学の学生のみなさんに「自分にとっての大学周辺地域」のスケッチを描画してもらいました。こうしたスケッチから、その人の普段の行動範囲や、関心のある場所について知ることができると言われています。
分析方法としてはまず、スケッチ上に描画された要素を、その人にとっての大学周辺地域を表象する記号であると位置づけます。そしてある2つの要素が同一の人によるスケッチ上で共に描画されている場合に、それら2つの要素が「共起」していると呼び、どのような記号的関係性においてその2つの要素が共起しているのかについて分析を行っています。
現在は、建築物のなんらかの変化(すなわちデザイン)が、記号としてはどのような変化として捉えることができるのか、そしてそれが周辺の記号群の「共起性」にどのような変化を与えうるのかを確率値で推定する方法を構築し、構築した方法による推定結果の分析と、推定結果を可視化するシステムによる推定結果の分布状況の分析とを通した、記号群の共起性の評価を行っています。
共起性の評価の結果、中には同じ道路沿いにあることが影響して共起する記号群があります。これらは、今後のデザインの仕方によって、道路沿いの記号群が共起する確率がより高くなる場合もあれば、より低くなる場合もあります。したがって今後、当該通り沿いにある建築物をデザインする際に、例えば通り沿いに対してまとまった印象を持つことを促したい場合には共起する確率が上がるようなデザインを行う方がよいことが推測されます。このように本研究を遂行することによって、人間にとっての建築物の意味やその解釈を機軸に、周囲の建築物との関係性を考慮したデザインを行うことが可能になります。
研究業績
原著論文
木曽久美子 :
スケッチマップにおける建築記号の多義性に着目した共起性の評価-フランシュコンテ大学を対象とした建築記号の解釈としての認知地図の分析,
日本建築学会計画系論文集, vol.82(No.742), pp.3081-3091, 2017.12.木曽久美子 :
多義性を考慮したスケッチマップにおける建築記号の共起性についての分析-建築記号群の解釈としての認知地図の分析に基づく建築・都市空間のデザインに関する研究(その3),
日本建築学会計画系論文集, vol.82(No.734), pp.917-927, 2017.4.木曽久美子 :
共起確率値評価システムに基づくスケッチマップにおける建築記号の共起性の評価-建築記号群の解釈としての認知地図の分析に基づく建築・都市空間のデザインに関する研究,
Designシンポジウム2016 2016.12.木曽久美子 :
共起確率値評価システムに基づくスケッチマップにおける建築記号の共起性の評価-建築記号群の解釈としての認知地図の分析に基づく建築・都市空間のデザインに関する研究 (その2),
日本建築学会計画系論文集, vol.81, No.726, pp.1653-1663,2016.8木曽久美子 ,松下聡:
共起性に着目したスケッチマップにおける建築記号群の描画確率の検討-建築記号群の解釈としての認知地図の分析に基づく建築・都市空間のデザインに関する研究 (その1),
日本建築学会計画系論文集, vol.80, No.718, pp.2803-2813, 2015.12Kumiko KISO ,Teruyuki MONNAI:
Preliminary study on a method for space design analysis based on human behavior semiosis using a multiagent simulator,
Agent-Based Approaches in Economic and Social Complex Systems VIII Agent-Based Social Systems, Vol.13, pp.87-102, 2015.7- 木曽久美子,松下聡:
スケッチマップの構成要素の共起性に着目した大学周辺地域のデザインに関する研究,
Designシンポジウム2014, pp.175-182, 2014.11 木曽久美子 , 門内輝行:
発話分析に基づく人間行動の記号過程の解読とシミュレーション -建築・都市空間が誘発する人間行動の記号過程に関する研究(その3),
日本建築学会計画系論文集, vol.78, No.687, pp.1003-1012, 2013.5木曽久美子 , 門内輝行:
人間行動の記号過程の確率ネットワークモデルとそれに基づくシミュレーション -建築・都市空間が誘発する人間行動の記号過程に関する研究(その2),
日本建築学会計画系論文集, vol.77, No.680, pp.2329-2338, 2012.10Kumiko KISO , Teruyuki MONNAI:
Study on Semiosis of Human Behaviors Afforded by Architecture and Urban Space Using Multi Agent System,
the Proceedings of the 4th World Conference on Design Research IASDR 2011, no.308 (CD-R), 2011.11木曽久美子 , 門内輝行:
建築・都市空間における人間行動のモデル化とシミュレーション -建築・都市空間が誘発する人間行動の記号過程に関する研究(その1),
日本建築学会計画系論文集, vol.76, No.668, pp.1819-1828, 2011.10木曽久美子 ,更谷安紀子, 森井雄史, 澤田圭, 青野文江, 渡辺千明, 林康裕:
地域型木造住宅の地震被害低減策に関する研究-三重県沿岸地域を事例として,
日本建築学会技術報告集, No.24, pp.471-476, 2006.12